セミオートマチックトランスミッション とは、自動車の変速方式の分類の一つであり、本来は、手動変速機におけるクラッチ操作を自動化したものを指す。
クラッチペダルの無いシーケンシャル・トランスミッションも、広い意味では、セミオートマチックであると言える。
自動変速機(無段変速機(CVT)を含む)の変速比を、手動で随時選択できるようにしたものを「セミオートマチックトランスミッション」と呼ぶケースもあるが、根元の技術上では本来の意味と異なる用法である。
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1908年から製造されたフォード社の大衆車「モデルT」(いわゆる「T型フォード」)は、ペダル作動の2段遊星歯車変速機を搭載しており、摩擦クラッチの作動は半自動式で、変速用のシフトレバーはなかった。
ハンドブレーキを掛けている間は、クラッチが切断されている。チェンジペダルを踏み付けたまま、ハンドブレーキをゆっくりと緩めることで発進できる。アクセルペダルはなく、ステアリングホイールを握ったまま操作できる、手動式スロットルレバーが付いている。
チェンジペダルを踏んでいる間はローギア、足を離すとハイギアで、後進の際には停止中に別のバックギア用ペダルを踏むだけである(最高速度は60km/hそこそこなので、2速式でも不都合はなかった。急勾配は超低速のバックギアを代用し後進してクリアせよ、という合理的(?)な仕様)。
当時としては極めて運転の容易な変速システムであり、日本では大正時代の一時期、フォード・モデルT専用の免許が存在したほどである(のちのAT限定免許の先駆であろう)。このイージー・ドライブな変速システムは、モデルTが世界的に普及した一因であると共に、のちにアメリカにおいて自動変速機が普及する素地を作ったとも言われている。
フォード・モデルTの変速方式は3段以上の多段化に適さないため、高速化・高出力化を進める競合他社の追随するところとはならなかった(モデルTの後継形として1927年に登場したフォード・モデルAも、通常のマニュアル3速になっている)。
しかし、変速を容易化する見地からモデルTの手法を更に発展させた手法が1920年代に出現する。プリセレクタ・ギアボックス preselector gearbox である。
これは、半自動式クラッチと遊星歯車変速機を組み合わせた半自動変速システムである。
プリセレクタ・ギアボックス搭載車は、フットペダルに、通常のクラッチペダルの代わりにチェンジペダルを装備し、ステアリングコラムかもしくはダッシュボードに、小型のシフトレバーが付いている。段数は4段程度が普通だった。
発進時にはまずシフトレバーを1速に入れる。チェンジペダルを一踏みして足を離すと1速につながり、発進できる。半クラッチの必要はないが、アクセルの適度な調節は必要である。
2速以上へのシフトアップ、またシフトダウンも同様の操作で行われる。停止時にはブレーキを踏めば、自動的にクラッチが切れる。慣れれば相当迅速なシフトチェンジができる。変速に先立って変速段を選択しておくことから「プリセレクタ」の名称が生まれた。
フランスのコタル(Cotal)式や、イギリスのウィルソン(Wilson)式があり、概して信頼性の高いシステムであったと言われる。
プリセレクタの半自動クラッチには、遠心式、電磁式、流体継手など各種の方式が用いられたが、特に流体継手は、ほかのクラッチ方式よりも滑り現象によって「半クラッチ」を行いやすいため、この方式の主流となる(いわゆるクリープ現象への着目)。
最初の採用例は1928年にイギリスのヴィッカーズ・アームストロング社が製造した大型バスであった。イギリスとフランスで多く用いられ、特に1930年代のイギリスでは、高級車・中級車で広く使われた。
レーシングカーの分野でも、イギリスのレイモンド・メイズがライレーをベースに開発した小型レーサー「ERA」がプリセレクタを搭載し、1930年代後半の小型車レースで優れた成績を収めている。またプジョーも1937年にスポーツカー「402ダールマット・スポール」にコタル式プリセレクタを搭載、ル・マン耐久レースで好成績を収めた。
第二次世界大戦後に至っても、ディムラー、ランチェスターやドライエなどがまだ採用していたが、1950年代末期には自動変速機の普及によって衰退している。
プリセレクタは既に廃れてしまった方式だが、流体継手の優位性と、遠隔操作の多段式遊星歯車変速機の技術を確立した点で、のちの自動変速機に連なる重要な存在であると言える。
1930年代~1960年代には、マニュアルトランスミッションのクラッチのみを自動式としたモデルが、ヨーロッパで製造された。一般に、ごく廉価な大衆車ではアクセル操作に頼る遠心クラッチ、小型車~中級車ではアクセル開度に応じた電圧変化でクラッチを断続する電磁クラッチ、「サキソマット」に代表される、吸気管負圧をつ利用した真空式、中級以上の車種の一部には、流体継手を用いる流体クラッチが用いられた。
電磁クラッチ車の中には、シフトレバーに触れることでクラッチを断続するモデルも存在した。日本では、1960年代の日野・コンテッサやスバル360、スバル・レックス(初代、550cc化後の後期型)、日産・チェリー(2代目)、日産・パルサー(初代)での例がある。しかし、渋滞などで求められる微細な操作に適さないきらいもあり、日本では早くに廃れ、市場のニーズは完全な自動変速機に移行した。
だがヨーロッパ車の一部には、21世紀初頭に至ってもこの種の方式が残存している。
前述の戦前形競技車は別格として、レーシングカーでの採用例は遙かに下ることになる。
1989年にF1においてフェラーリが「フェラーリF1-89(type640)」(通称:フェラーリ640)に、セミオートマチックトランスミッションを実戦投入した。
これは、ステアリング・ホイールに変速指示用のパドルスイッチを設け、レーサーがステアリングから手を離すことなく操作ができるようにしたものである。変速時のエンジンの回転数も電子的に制御することにより、レーサーが競技により集中できるようになっていた。また、コクピットにシフトレバーを設置するスペースが不要となりモノコックをシンプルかつコンパクトに設計できた。2007年時点では、F1競技に参加する全ての車両が、何らかのセミオートマチック機構を搭載している。 ちなみにF1カーにもクラッチボタン(もしくはストロークがあるパドル)があり、これを押すことでクラッチを手動で操作できる。走り始めてからの変速の時には使わない(使う必要がない)が、ピットインするときやスタートのときのみ(すなわち、ニュートラルから1速に入れるとき)使用する。
WRCにおいても、スバルがインプレッサグループA仕様でセミオートマチックトランスミッションを実践投入した。 これは、通常のHパターンマニュアルトランスミッションを、圧縮空気で作動するアクチュエーターで操作するシステムであった。そのためトランクスペースに圧縮した空気をため込むタンクが装備されている。 しかし変速スピードが遅く、ドライバーはスペシャルステージでは自分の手で変速を行い(シフトレバーは残されていた)、変速スピードの必要ないリエゾンでこのシステムを使用するなど、実戦で本格的に使用に耐えるシステムでは無かった。 のちにトヨタがカローラWRカーに、通称「ジョイスティック」と呼ばれる、スイッチで操作するセミオートマチックトランスミッションを搭載し、ほぼ同時期に、スバルが従来の圧縮空気から油圧に変更されたシステムをインプレッサWRカーに搭載した頃から実戦で使用できる物になった。
2007年時点では、ワークスマシンはほぼ全てセミオートマチックトランスミッションを装備している。 インプレッサ以外のマシンはドグミッションのシーケンシャルマニュアルトランスミッションをベースにしているが、インプレッサはHパターンのマニュアルトランスミッションをベースとしている。これは、ラリーではサーキットレースと違いスピンがよく起き、そのリスタートの際に1速への変速を迅速に行わなければならないためである。シーケンシャルベースのシステムだと1速に戻すために何回もパドルやレバーを操作しなければならないのに対し、Hパターンベースのシステムだと1速へ直接変速でき、タイムロスが少ないためと言われている。
WRカーではクラッチペダルやシフトレバーは残されている。(一部シフトレバーが無いマシンもある。) これはF1マシンと違い、コクピットスペースに余裕があり、システムに異常が起きても手動での変速が可能で、冗長性が高い(リタイアせずにすむ)ためである。またラリーのSSでは、多様な路面状況下で静止状態から発進するため、ドライバーの要求どおりの発進加速を得るために、クラッチペダルは必要である。半クラッチ状態で待ち、スタートと同時にハンドブレーキを解除して発進する様子は車載カメラの映像でも確認できる。
ル・マン24時間レースでは、セミオートマチックが許可されていない時期は、マニュアルシフトとセミオートマチックのパドルを組み合わせていた。
セミオートマチックの変速機は、長らく低コストでイージードライブを提供する手段としての認識が強かった。
現在では、専らスポーツモデルでマニュアルトランスミッションの持つダイレクト感とオートマチックのイージードライブを融合したスポーティなイメージで搭載されていることが多い。
具体的にはBMWのSMG、フォルクスワーゲン・アウディグループのDSG、ルノーのイージーシステム、シトロエンのセンゾドライブ、アルファ・ロメオのセレスピード、フェラーリのF1マチック、ランボルギーニのe-gear等が挙げられる。国産ではトヨタのSMT、2007年10月発売のランサーエボリューションXのTwin Clutch SSTがある。
パドル式のシフターを採用する市販車の場合、ステアリングのロックトゥロックのレシオの関係から、パドルの位置が逆転した際の操作ミスを防ぐために、パドルはステアリングコラムに固定されている場合が多い。
クラッチレスのトランスミッションがスポーティなイメージを持つきっかけとなったのは、1990年にポルシェが採用した「ティプトロニック」であるが、これは一般的なトルクコンバータ式オートマチックのギア操作を手動で行えるようにしたもの(シフトアップもドライバー自身が行う)であり、SMGやDSGのような乾式クラッチを用いたセミオートマチックではない。同種のものにはアルファロメオのQシステム等がある。国産車でもシフト操作をスイッチングやティップシフトで行えるものが多くなってきているが、ギアボックス自体の多くはトルクコンバータ式オートマチックトランスミッション、もしくはCVTであり、セミオートマチックトランスミッションには含まないのが通例。
フィンガーシフトを参照
上記の電磁エア式トランスミッションをベースとして、変速とクラッチ操作を自動化した、機械式オートマチックトランスミッションが存在する。
機械式ATは変速タイミングやメンテナンス面から運転手・整備士双方から敬遠され、近鉄バス、京王バスグループ、関東バス、横浜市交通局など、一部事業者が集中導入した以外はほとんど普及せず、現在では製造されていない。その後はノンステップバスなどを中心に、トルコン式ATが普及している。
上記はバス用に開発されたものであるが、その後システムの進化と共に国内・海外を問わず現在は各メーカーよりクラッチ操作の一部、または全てを自動化した機械式オートマチックトランスミッション搭載のトラックが発売されている。 近年の採用増加についてはドライバーの疲労低減や、シフトマップの最適化による燃費の追求、さらに大型車については燃費と動力性能の両立を狙い8段以上の多段トランスミッションの搭載が増えており、変速操作の煩雑さの解消といった理由もあげられよう。積載量2トンクラスの小型トラック市場、積載量4トンクラスの中型トラック市場では、2007年1月現在に於ける普通自動車AT限定免許で運転が可能という運転者側のメリットも挙げられる。
システムは従来乾式クラッチとマニュアルトランスミッションを電動エア(エアシリンダー+制御電磁弁)で制御するものであったが、最近では乾式クラッチの代わりにフルードカップリング+湿式多板クラッチを使ったものや、制御も油圧やモーター、ソレノイドを使ったものが存在する。